MLB球団インターン体験談 伊勢澤颯太さん
今回はMLB球団のインターンを経験した北海道教育大学岩見沢校2年 伊勢澤颯太さんのインタビューをお送りします。
参加しようと思ったきっかけ
私は将来、スポーツを通じて街や社会の課題を解決し、地域の活性化に繋がるような取り組みをしたいと考えています。そのための手段として、プロスポーツチームに職員として入社し、スポーツを利用したCSR活動に携わっていきたいと考えました。
また、スポーツチームの経営についても興味がありました。そのため、参加するにあたり、個人的にチームや街について調べ、事前の説明会に参加しました。その結果、ウィチタウインドサージは、ボールパークを中心に商業施設を発展させ、街の犯罪率を低下させているということを知りました。
インターンシップに参加することで、希望する進路に活かせる経験ができると考えたので参加を決意しました。
インターンの内容
1日目
初日は、試合が無かったため業務を行うことはありませんでしたが、MLBでコーチとして活躍されている三好コーチに会い、お話を伺いました。
特に印象強かったのは、日本では当たり前になっている事がアメリカではそうでないという事です。MLBのコーチは労働基準法に則り一定期間の休暇を取らなければならない事や、感覚を用いた指導ではなく「エビデンス」を重視した指導を行っているという事を初めて知りました。
特に、ゲッツーシフトは二遊間を詰める事で併殺をとりやすくなる守備シフトだと考えられています。しかし、三好コーチのお話を聞く限りでは、定位置とゲッツーシフトでの併殺処理にかかる時間の比較や、広くなった一二塁間や三遊間に飛んだ打球がヒットになる可能性を考慮した結果などの何かしらの根拠を持っていて、それらに基づいて守備シフトを決定しているようです。まさしくこれがエビデンスを重視したやり方なのだと知るきっかけになりました。日本の当たり前は世界では違うということを私は強く実感しました。
今後大学の授業で各自自由にテーマを決めて研究を行い、その結果を発表するという機会があるので、今回の気づきを活かし、ゲッツーシフトによる併殺打と失点の増減について調べていきたいと思っています。
2日目
この日から本格的な業務が始まりました。球場に到着し、英語で自己紹介やスタッフへの挨拶を行いました。その後、スタッフ全体で主にスケジュールについての確認ミーティングを行いました。
球場では、曜日ごとでそれぞれ違うイベントを行っていて、これが日本にはあまりない方法だったのですごく新鮮な気持ちでした。(火曜:チケットを買うとホットドッグが無料、水曜:グループチケットが半額、木曜:ビールが半額、金曜:試合後に花火、土曜:グッズをプレゼント、日曜:グラウンドでのキャッチボールと子供たちのダイヤモンド1周)
その中で私が特に印象的だったのは会議のスタイルです。スタッフミーティングがある事は事前の説明会で聞いていたため、司会役が議題についての説明や進行を行いつつ、意見がある人は挙手をして発言するものだとイメージしていました。しかし、実際は床やテーブルにスタッフが座り、全体で和気あいあいと話をしていたのが驚きでした。結果的に多くの人がミーティングに耳を向け、積極的に発言をしていて、全員が発言しやすいような雰囲気づくりが上手いと感心しました。
ミーティング終了後は、球場の施設を案内してもらいました。ウィチタリバーフロントスタジアムは、日本のプロ野球チームが本拠地としている球場と比べると規模は小さいですが、座席と座席の間隔や通路が広く設計されており、狭さを感じにくかったです。また、観客が利用するトイレは入口と出口がそれぞれ1箇所ずつあり、一方通行で進んでいく導線が作られていたのも印象的でした。このような不便さを感じさせないような設計、混雑を回避するための工夫ははじめて見ました。
球場の施設案内が終わった後は昼食をとり、試合中に行う業務についての説明を受けました。この日は、球場に来た観客が持っているチケットのバーコードを専用の機械で読み取るという業務と試合中の見回りを担当しました。
見回り業務は、球場内でのトラブルや異変がないかを確認し、見つけた際に早急な対応をすることが目的です。しかし実際に行っていると、観客と見回り業務を行っているスタッフが楽しそうに雑談する様子や、観客と一緒に試合を見ている様子を目にする事が多かったです。単なる見回りだけではなく、この業務にはチームと観客の距離を近づけ、顧客ロイヤリティーを高める効果もあるのだと知りました。捉え方によっては仕事に集中していないと見ることもできますが、見回りだけをするよりも得られるメリットが大きいと考えます。そのため、私も観客とコミュニケーションを取ることにしました。英語がほとんど話せなかったため、翻訳アプリを使っての会話になりましたが、特に問題なくコミュニケーションを取ることができ、非常に楽しかったです。
3日目
3日目は、はじめに球団のSNSの活用方法についての説明を聞き、予告先発投手の発表とイベントの告知についての投稿を担当しました。これらの投稿は事前に投稿内容を設定し、時間になると自動で投稿される仕組みになっています。球団はX、Threads、Instagram、Facebookの4つのSNSアカウントを運営しており、XとThreadsでは試合結果やスタメン発表、InstagramとFacebookでは球場で行われるイベントについての投稿を行っていました。
午後からは球場の整備を行います。はじめに荷台を使って駐車場の車にあるペットボトル飲料をベンチ裏に運び、次にホームチーム側のベンチとブルペンに、ウォータージャグを設置しました。その後、グラウンドの水撒きも行いました。
しばらくするとホームチームのノックとビジターチームの打撃練習が始まりました。終了後はすぐに打撃ケージを回収し、グラウンド整備とライン引き。想像よりもやる事が多く、大変でしたが、すごく充実していました。球場の整備を行うと言われたとき、指定の場所についた時に10人くらいのスタッフがいる事にはじめは違和感を覚えましたが、業務終了後に多くのスタッフが配属されている理由が分かりました。
試合中は、イニング間にスコアボードに表示される広告に不備がないか確認する業務を行います。スコアボードに広告が表示されたら写真を撮り、表を見て確認するというもので、この写真はスポンサーの企業に広告が正常に表示されていたことを証明する証拠になるそうです。
4日目
4日目は球場の通路に複数設置されているクーラーボックスに、缶ビールと氷を入れる業務を行いました。ビールの販売方法が、日本のような売り子による販売ではなく、各売店で販売していることが衝撃的でした。
昼食後は球場から車で20分程度移動し、ホームレスにむけた食料支援のボランティア活動を実施しました。ビニール袋にトウモロコシとトマトを入れ、それらを車に積んでいくという内容です。ウィチタの市長も途中から駆けつけて作業に参加していました。野球チームが、ホームレスの食料支援についての取り組みを行っている事例をあまり知らなかったため、とても興味深かったです。
試合中は見回り業務を行いつつ、イニング間に行われるアイスやボールを観客に投げてプレゼントするイベントの手伝いをしました。日本ではグラウンド内から観客席に投げることが多いですが、こちらではベンチの真上に上り、そこから投げるという形になっていました。普段できない経験ができてすごく楽しかったです。
5日目
5日目は、前日と同様にクーラーボックスに缶ビールと氷を入れる仕事からスタートしました。
その後は、試合後に花火を打ち上げるための交通整理を行います。具体的には、球団のロゴがプリントされたリリーフカーで、球場の周りにカラーコーンを設置し、信号機の表示を操作します。
試合中はグッズ開発についての説明を聞き、チームショップの在庫の整理を行いました。グッズの開発や価格設定は基本的に1人で行っているようで、Excelに全ての商品の原価、発注数、売上数、在庫数などが記載された表が作成されていました。レジで商品を購入する時にバーコードを読み取ると表が自動で更新される仕組みになっています。価格設定の基準は原価の2倍に設定し、そこから売れ行きに応じて値段を変えていくと聞きました。
6日目
6日目は、空港付近の飛行機博物館で3人の選手が子供たちにサインをするボランティア活動があったので、そのイベントに同行しました。
シーズン終盤で首位争いをしている時期にこのような活動を行っているチームはあまり知らなかったため正直驚きました。選手達はサインだけでなく、博物館のスタッフに案内されて館内の説明を聞いたり、写真撮影をしたりもしながら楽しく過ごしていました。
最終日
最終日は、チケット販売についての説明を聞きました。子供は料金が安くなる、バックネット裏が高くてそこから離れていくにつれて料金が安くなるといった特徴は日本と変わらなかったです。しかし、何らかの理由で試合が中止になった時の対応は日本と異なり、こちらでは代わりの試合チケットを無料で配布するそうです。この無料チケットを観客が断った時はチケット代金の返金を行うという流れになっていることを知りました。
日本では初めから返金対応をしますが、マイナーリーグでは、観客に選択肢があるのが特徴的だと感じました。また、現時点でダイナミックプライシングは導入していないけれど、いずれ導入する予定ということも聞きました。
今後どのように活かしていきますか?目指していることは何ですか?
今回のインターンシップでは、曜日ごとでイベントを変える、見回り業務での観客との距離感を縮めるなど、今まで知らなかった工夫や取り組みについて知る事ができました。将来、スポーツチームで働く事ができれば、今回学んだ工夫を所属するチームの特色に合わせてアレンジして取り入れていきたいと思っています。
また、マイナーリーグ球団の雰囲気は、日本の独立リーグや企業チームに近いというのも大きな発見でした。以前まではプロスポーツチームの職員になりたいと思っていましたが、今回をきっかけに独立リーグや企業チームで働いてみたいとも思うようになりました。今後は北海道フロンティアリーグでアルバイトやインターンシップの募集がないかを探していきたいです。
北海道教育大学岩見沢校2年 伊勢澤颯太